【時事】シリア内戦を思う

■シリアで化学兵器使用か 死者70人に
4月5日 19時13分 NHK NEWS WEB
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20170405/k10010938301000.html

 

 「今世紀最悪の人道危機」とも呼ばれるシリア内戦。これは現実に起きている出来事だ。にも関わらず、この「シリアの現実」は、わたしたちの生活、つまり「わたしたちの現実」とはあまりにもかけ離れている。かけ離れ過ぎているゆえに、わたしたちは「シリアの現実」に「リアリティ」を感じられずにいる。要するに、身近に感じられないのだ。


 「リアリティ」が感じられない出来事は、なにもシリア内戦だけではない。3月22日にはイギリス・ロンドンでテロが起き、つい先日の4月3日にはロシア・サンクトペテルブルクの地下鉄で爆破テロが起きた。わたしたちは9.11以降、すっかり「テロ」に慣れてしまった。正確に言えば「テロ事件の報道」に慣れてしまった。「またか」と思うだけになってしまった。もちろん、わたし自身も含めてのことである。

 
 あっさりと「またか」で片づけてしまう理由はいくつか考えられる。ひとつは、あまりにテロが頻発しすぎて、報道が日常化してしまっているからである。またひとつは、心のどこかで「自分たちには関係のない出来事」だと思っているからである。つまり、「わたしたちの現実」にテロが起こるなんて「想像もできない」ということである。北朝鮮によるミサイル攻撃には、多少の「リアリティ」を感じても、テロリストによる攻撃には「リアリティ」を感じられないから、「想像もできない」のである。

 
 もしくは、こういう理由もあるかもしれない。わたしたちは「わたしたちの現実」で手一杯で、シリア内戦だとかテロ事件について思いを巡らす余裕がない、と。確かに「内戦やテロに比べれば日本は平和で、わたしたちは幸せだ」という意見はまったくその通りなのだけど、「わたしたちの現実」もまた切実なものだ。

 
 遠い国で悲惨なことが起きて、その報道を知って胸を痛めようとも、「わたしたちの現実」は否応なしにやってくる。仕事をしなければならない。学校に行かなければならない。掃除、洗濯、炊事をしなければならない。そして毎日の疲れを癒やすため、あるいは活力を取り戻すため、レジャーに出かけ、趣味に没頭し、娯楽に興じる。そんな生活のなかで、「シリア内戦やテロ事件について考えるだなんて、ますます気分が落ち込むだけだ。元気が出ないことはやりたくない」という気持ちになってしまうのも、やむを得ないことなのかもしれない。わたしたちはあくまで「わたしたちの現実」を生きなければならないのである。

 
 そもそも、シリア内戦やテロ事件について考えようとしても、一体なにをどう考えればいいのだろう。当事者でも関係者でもないわたしに、専門家でも活動家でもないわたしに、いったい何が言えるというのだろう。この未曾有の惨事に対して、ただただ言葉を失うばかりだ。言葉を失ってしまうのは、「ありふれた陳腐な言葉」しか思いつかないからだし、「ありふれた陳腐な言葉」では、この巨大で残酷な「現実」を捉えきれないからでもある。誠実に「現実」と向き合おうとすればするほど、何も語れなくなってしまうのである。

 
 だから、何も語らず、ただ黙って、寄付や募金をする方がよっぽど善いことなのかもしれない。実際、お金によって救われる命がたくさんあるはずだ。単にシリアの現状を憂うだけでは、誰の命も救うことはできない。わたしがいくらシリアについて思いを巡らしても、思想や思索では、直接的に人を救うことはできない。それはわかっている。

 
 そのうえでわたしは、思想や思索がまったく無意味だとは思わない。たとえば、思想や思索は、物事を「普遍的な問題」として捉え直すことができる。「普遍的な問題」として捉え直すことで、わたしたちにとっても身近な問題として、浮かび上がらせることができる。

 
 シリア内戦やテロ事件を、わたしたちと同じ「人間」が起こしている出来事だ、と捉えてみよう。わたしたちと同じ「人間」が残酷な行為をしている。わたしたちと同じ「人間」が被害にあっている。そして、現地で一人でも多くの命を救おうと懸命に活動している人達もまた、わたしたちと同じ「人間」なのである。

 
 「人間」すなわち、わたしたちとは一体何なのだろう、そう思いを馳せることで、「わたしたちの現実」とはあまりにもかけ離れている「もうひとつの現実」を、少しでも身近な問題として感じられるようになるのではないか。「リアリティ」を感じられるようになるのではないか。最近はそんなことを考えていたりする。


【追記 4/7】
■米、シリア政府拠点にトマホーク50発 初の直接軍事行動
2017.04.07 Fri posted at 10:37 JST CNN
http://www.cnn.co.jp/world/35099428.html